あと施工アンカーは建築物に使用できないと聞きましたが本当ですか。
使用できます。
ただ、使用する建築物・箇所に制限があるので、注意して使用する必要があります。わかりやすく解説していきます。
関係条文:法37条、令94条(令99条)
ポイントは大きく2つ
ポイントは以下の2つです。
① 建築材料としての制限を受けるか(法37条)
② 構造計算において使用の制限を受けるか(令3章8節)
結論からいいます。ポイント①は制限を受けませんが、ポイント②は制限を受けます。
①建築材料としての制限(法37条)
指定建築材料(法37条)か
H12建告1446号第1に掲げられていないためあと施工アンカーは指定建築材料ではありません。
よって、法37条上はコンクリートなどの指定建築材料を使用する際に制限を受ける基礎や主要構造部や構造耐力上主要部分でも使用することができます。
構造耐力上主要な部分とは
「構造耐力上主要な部分」は、ポイント①においても出てきますが、ポイント②でも出てきますので、簡単に解説しておきます。
構造耐力上主要な部分とは、令1条三号に用語の定義が規定されています。
柱・梁などで建築物自身が外部からの荷重を支えるために重要な部分です。混合してしまうのが法2条五号ででてくる主要構造部です。こちらは防火重要な部分で、意味合いが異なります。
構造耐力上主要な部分 基礎、基礎ぐい、壁、柱、小屋組、土台、斜材(筋かい、方づえ、火打材その他これらに類するものをいう。)、床版、屋根版又は横架材(はり、けたその他これらに類するものをいう。)で、建築物の自重若しくは積載荷重、積雪荷重、風圧、土圧若しくは水圧又は地震その他の震動若しくは衝撃を支えるものをいう。
②構造計算における使用の制限(令3章8節)
結論からです。以下の図で適用を確認できます。
- 鉄筋コンクリート造等の部材と構造耐力上主要な部分である部材との接合に用いるときに使用できる
- 許容応力度計算が必要な構造耐力上主要な部分で、あと施工アンカーが長期の応力を負担しない部分に使用できる(R4.5現在)
上記の条件がありますので、そのあたりを中心に解説していきます。
用語を理解していなければ上記の条件を理解できないと思いますので、簡単に用語の解説しながら進めていきます。
許容応力度計算とは
許容応力度計算の原則は式①に集約されます。
式① 各部材に生じる力(応力) ≦ 各部材の許容できる応力
建築物は、原則、構造計算で構造安全性を確認する必要があります。(構造計算が不要な建築物もあります。)構造計算では、建築物の自重や地震力などの外力によって建築物の構造耐力上主要な部分に生じる力(応力といいます。)がそれぞれの部材が持っている耐力で持ちこたえることができるかを確認します。この耐力を建築基準法で示された許容できる応力(許容応力度)としたときの計算方法を許容応力度計算(令第82条第一号から第四号)といいます。
許容応力度とは
この許容応力度計算に必要な部材の許容できる応力は何でもいい訳でなく、令第3章8節第3款に許容応力度として規定されています。もちろん同様に各部材に生じる応力についても求め方が規定されています。許容応力度は部材が弾性状態にあることが前提です。
許容応力度の「度」は単位面積当たりという意味です。
ここでのポイントは「許容応力度が示されていない材料は許容応力度計算で①の式のチェックのしようがない」ということです。
許容応力度計算が必要な建築物の構造耐力上主要な部分には使用できない。ということになります。建築基準法に基づく許容応力度計算で使用する許容応力度は材料メーカーや設計者が勝手に設定することはできません。
ここまでは、一般的な話です。
あと施工アンカーの許容応力度は?
あと施工アンカーの許容応力度は令94条に基づいて平13国交告示1024号に特殊な材料として示されています。ただし条件付きです。
第1 特殊な許容応力度
…
第14号 あと施工アンカー(鉄筋コンクリート造等の部材と構造耐力上主要な部分である部材との接合に用いるもの。第2第十三号において同じ。)の接合部の引張り及びせん断の許容応力度は、その品質に応じてそれぞれ国土交通大臣が指定した数値とする。
…
カッコ内に使用する条件が示されています。
そして、「国土交通大臣が指定した数値」とありますが、メーカーごとに指定を受けます。例えば下記はエヌパット㈱のパーフィクス・ハーモニックアンカー(無機系)という商品の指定書です。
http://www.n-pat.co.jp/products/perfix-harmonic-anchor/
短期の許容応力度(条件付き)しか指定されていません。(他の商品も短期の許容応力度だけです。)
これが最重要です。
長期の応力を負担する部分には使用することができません。
もちろん、今後、長期の許容応力度が示されれば使用できるようになります。
補足:材料強度も許容応力度と同様です
ここでは簡単な解説に届けますが、建築物の規模などにいよっては各材料の強さを許容応力度だけでなく材料強度という値を用いて構造計算をするものもあります。あと施工アンカーの材料強度は、現時点(R4.5)で許容応力度と同様に短期の値しか示されていません。
今後は長期の許容応力度・材料強度が示される?
上記でも解説しましたが、H13建告第1024号は令和4年3月31日に改正され使用条件が大幅に緩和されました。この改正を踏まえ、今後は長期の許容応力度・材料強度が指定されたあと施工アンカーがでてくると思われます。
あと施工アンカーの使用はよく考えから
2012年に起きた笹子トンネルの天井崩落の事件を覚えていますか。この事件はあと施工アンカーが原因で起きた事件です。あと施工アンカーの施工不良や保守点検の問題もあるといわれていますが、あと施工アンカーが天井の長期荷重を支えきれずに天井が崩落し事件が起きました。建築物の世界においては長年、長期の荷重を負担する部分には使用できないよう法規制されていました。この事件から10年以上が経過し、技術の向上や品質の確保など様々研究や実験がされたと思いますが、法改正により使用範囲が拡大し、今後は長期荷重を負担することができるあと施工アンカーが出てくると思います。
建築物が大好きな者として、建築物では笹子トンネルのような事件が起きないよう建築主・設計者などにおいては適切に使用されることを願っています。