建築基準法における許容応力度計算の目的
許容応力度計算は、建築基準法において、建築物の構造計算の基本となる構造計算手法です。1次設計の核になる構造計算方法として規定されています。
建築基準法における許容応力度計算は、構造耐力上主要な部分(構造部材)が通常時(長期荷重時)の使用に加えて、強風時、積雪時、中規模な地震時(短期荷重時)において構造部材に損傷などがなく使用し続けいることができることを目的としてします。
地震時などの短期荷重が発生した後も損傷なく使用し続けるためには、構造部材に短期的に荷重がかかっても、その後元の状態に戻らなければなりません。この元の状態に戻る範囲ののことを弾性範囲状態といます。許容応力度計算は、構造部材に荷重がかかっても(安全率を見込んだ)弾性範囲状態でに収まることを確める構造計算方法です。(弾性状態をこえた状態を塑性状態といいます。)詳しくは後述しています。
建築基準法では、許容応力度計算と許容応力度等計算が出てきます(等があるかないか)が、それぞれ違いますので注意しましょう。
許容応力度計算の規定内容
建築基準法の中で、許容応力度計算は令82条一号〜三号に規定されています。
許容応力度計算は、保有水平耐力計算(ルート3)で行わなければならない構造計算の一つです。
勘違いされている方がいますが、保有水平耐力計算は令82条の3(保有水平耐力と必要保有水平耐力を比較)だけではありません。
保有水平耐力計算は、令3章8節1款の2、82条の本文で定義づけられています。
前条第2項第一号イに規定する保有水平耐力計算とは、次の各号及び次条から第82条の4までに定めるところによりする構造計算をいう。
一から四号 略
具体的には、令82条一号・二号・三号・四号、令82条の2、令82条の3、令82条の4です。
少しややこしいですが、図でイメージするとわかりやすくなります。
保有水平耐力計算(ルート3)だけでなく、ルート1、許容応力度等計算(ルート2)、限界耐力計算、時刻歴応答解析においても令82条一号から三号を準用する形でそれぞれの構造計算の一部として許容応力度計算が求められます。(限界耐力計算については、地震時については除外されています。)
許容応力度計算の具体的な内容
建築基準法では、許容応力度計算に限らず、保有水平耐力計算、許容応力度等計算に用いる数値の設定方法が示H19国交告594号第1(一号から三号)に示されています。
- 一号 適切にモデル化し、複数の仮定に基づいて安全を考慮して構造計算すること
- 二号 RC造耐力壁に開口がある場合は耐力を低減すること
- 三号 耐力壁以外の構造部材に開口部を設ける場合は耐力を低減すること
そして、許容応力度計算については、令82条一号から三号に示されています。
- 一号 構造耐力上主要な部分に生じる力の計算方法(→H19国交告594号第2)
- 二号 構造耐力上主要な部分に生じる力の組み合わせ
- 三号 各応力度が許容応力度を超えないことを確認する
令82条一号については具体的な内容がH19国交告594号第2に示されています。
令82条一号 構造耐力上主要な部分に生じる力の計算方法
令82条一号の具体的な内容が示されH19国交告594号第2に規定されています。
- 一号 構造部材が弾性範囲状態にあるものとして計算すること。
- 二号 非構造部材の影響も考慮して計算すること。
- 三号イ RC・SRC造で地震力を耐力壁で多く負担する場合の地震力の割増検討
- 三号ロ 冗長性の低い建築物の場合の水平力(地震力・風荷重などの割増検討)
- 三号ハ 屋上の階段室などの突出部分の地震力の割増検討
- 三号ニ 片持ちバルコニーなど突出部分の鉛直震度の検討
- 三号ホ 軽量の緩勾配屋根の積雪荷重の割増検討
許容応力度計算の基本である第一号の構造部材が弾性範囲状態がとても重要です。(概要については上述していますが、再度解説します。)
弾性範囲状態:力がかかって変形しても、力がかからなくなったらもとに戻る状態
よくバネで説明されます。
通常、
- バネは引っ張る(力を加える)と伸びます。
- 離すと元の状態に戻ります。
この状態が、弾性範囲状態です。
ただ、引っ張りすぎると、
- バネは強く引っ張る(大きな力を加える)と伸びます。
- 離すと元の状態に戻らず変形が残ります。(残留変形といいます。)
となってしまいます。
引っ張りすぎた状態は、バネが弾性範囲を超えた塑性範囲状態に入ったことを意味します。
許容応力度計算では建築物に荷重(自重や外力)がかかっても構造部材(正式には構造耐力上主要な部分)元に戻る状態である弾性範囲状態であることが大前提です。
なお、非構造部材については、許容応力度計算ではなく令84条の2(屋根葺き材等の構造計算)で1次設計のひとつとして安全であることを確認します。
二号 構造耐力上主要な部分に生じる力の組み合わせ
令82条二号では、一号の計算方法に基づき構造耐力条主要な部分に生じる力(応力)について、建築物にどのような荷重かかったときに構造部材に生じる力(応力)を計算するのか規定されています。具体的には表で表されています。
大きく長期と短期に分けて計算します。
組み合わせる荷重については、それぞれ令3章8節2款(84条から88条)に規定されています。
- 積載荷重(令84条)
- 固定荷重(令85条)
- 積雪荷重(令86条)
- 風圧力(令87条)
- 地震力(令88条)
北海道などの雪国では積雪の影響を大きく受けます。よって多雪区域(特定行政庁が指定)については積雪荷重のの影響を短期積雪時にだけでなく長期や短期の暴風時、地震時にも考慮する必要があります。
三号 各応力度が許容応力度を超えないことを確認する
令82条一号・二号では、構造部材に生じる応力の計算方法についての規定でしたが、第三号では部材に生じる応力に対してどのように安全(構造部材が弾性範囲状態)であるかを確認方法が規定されています。
第一号の構造耐力上主要な部分ごとに、前号の規定によつて計算した長期及び短期の各応力度が、それぞれ3款の規定による長期に生ずる力又は短期に生ずる力に対する各許容応力度を超えないことを確かめること。
令82条二号の荷重(長期・短期)の組み合わせ構造耐力上主要な部分に生じる応力度(σ)が令3章3款に定める材料ごとの許容応力度(f)を超えないことを確認します。
式で表すととても簡単な式です。
σ ≦ f (または σ/f≦1)
通常、σ、fの単位はN/mm2で単位面積あたりの荷重です。
原則、すべての構造部材のすべての断面位置でσ≦fを確認することが求められますが、実務的では、危険断面と言われる部材のなかでも大きな応力がかかる部分だけを確認すること多いです。
また、σ/fが1を超えているとNGですが、1以下の範囲でも0に近ければ、部材に大きな余力があることを意味します。逆に1に近ければ、部材に余裕がないことを意味します。
建築基準法だけでは構造計算はできない
残念ですが、建築基準法をいくら読み込んで熟知しても構造計算はできるようになりません。上記の解説を読んでも同様です。
構造耐力上主要な部分(柱)に生じる力(圧縮力)の計算方法は令82条一号に基づく告示H19国交告594号第1、第2に規定されていますが、告示でも具体的な計算方法がされておらず注意事項など基本的な事項が示されているだけです。
具体的な構造計算の進め方については、大学の講義で習うような構造力学を基本とし、技術基準解説書、日本建築学会が発刊する計算規準書を準拠して進めていきます。ただ、現在は構造計算ソフトを利用して行うことが一般的となっており、構造計算ソフトが勝手に構造力学や規準書に準拠した計算を自動で進めてくれます。