②構造計算基準

【わかりやすく解説】保有水平耐力計算(令3章8節1款の2)

保有水平耐力計算ってどんな計算?

法令集が手元にある方は、法令集を読みながら解説を読み進めると、一層、理解が深まります。

  • 保有水平耐力計算は、5つある構造計算基準のひとつで、通称ルート3と言われる構造計算基準です。(令第81条)
  • 保有水平耐力計算は、60m以下の建築物に適用できる構造計算基準(令第81条第2項第2号イ)
  • 1次設計に加え、構造なバランスに応じた地震時の安全性確保のための計算で構成されている。(令第3章第8節第1款の4)
  • 保有水平耐力計算をすると一部の仕様規定が適用除外となる。(法第20条第2項第三号)

保有水平耐力計算(ルート3)の位置付け

保有水平耐力計算は、いわゆるルート3といわれる構造計算基準です。 5種類ある構造計算基準のひとつです。規模・構造などにより選択していくことになりますが、比較的大きな建築物の多くが保有水平耐力計算を行っています。

構造計算方法条項
時刻暦応答解析法第20条第1項第1号
→令第81条第1項
限界耐力計算法第20条第1項第2号イ
→令第81条第2項第1号ロ
保有水平耐力計算
(ルート3)
法第20条第1項第2号イ
→令第81条第2項第1号イ
許容応力度等計算
(ルート2)
法第20条第1項第2号イ
→令第81条第2項第2号イ
許容応力度計算
(ルート1)
法第20条第1項第3号イ
→令第81条第3項

▶︎ 許容応力度等計算(ルート2)の解説はコチラ

適用できる建築物

保有水平耐力計算(ルート3)を適用できる建築物の規模による制限は「高さ60m以下であること」のひとつです。(法第20条第1項第2号→令第81条第2項第1号)

仕様規定の適用

適用する構造計算基準によっては、令第3章第1節から第7節の2に定めらている技術的基準(いわゆる仕様規定)の一部を省略することができます。

保有水平耐力計算(ルート3)については、耐久性等関係規定と耐久性等関係規定以外の一部の仕様規定が適用されます。(一部の仕様規定は適用除外となります。)

構造計算基準仕様規定の適用
時刻暦応答解析
(令第81条第1項)
耐久性等関係規定
(令第36条第1項)
限界耐力計算
(令第81条第2項第1号ロ)
耐久性等関係規定
(令第36条第2項第2号)
保有水平耐力計算:ルート3
(令第81条第2項第1号イ)
耐久性等関係規定+α
令第36条第2項第1号
許容応力度等計算:ルート2
(令第81条第2項第2号)
全ての仕様規定
(令第36条第2項第3号)
許容応力度計算:ルート1
(令第81条第2項第2号)
全ての仕様規定
(令第36条第3項)
構造計算不要
(法第20条第1項第4号)
全ての仕様規定
(令第36条第3項)

▶︎ 耐久性等関係規定の解説についてはコチラ

保有水平耐力計算の構造計算基準

令第82条1項本文で定められています。

第1款の2 保有水平耐力計算

(保有水平耐力計算)

第82条 前条第2項第一号イに規定する保有水平耐力計算とは、次の各号及び次条から第82条の4までに定めるところによりする構造計算をいう。

具体的には、以下の5つの計算をあわせて保有水平耐力計算といいます。

計算基準条項1次設計
or
2次設計
許容応力度計算令第82条第1〜3号1次設計
使用上の支障が起こらないことの確認令第82条第4号1次設計
層間変形角の確認令第82条の22次設計
保有水平耐力 必要保有水平耐力の確認令第82条の32次設計
屋根ふき材等の構造計算令第82条の41次設計

▶︎ 「1次設計と2次設計」の解説についてはコチラ

令82条の3の計算だけが保有水平耐力計算ではありません。令82条各号、令82条の2、令82条の3、令82条の4の一連の計算を保有水平耐力計算といい、令82条の3の【保有水平耐力 ≧ 必要保有水平耐力(Qu ≧ Qun)】の確認は一連の保有水平耐力計算の一部です。

ただ令82条の3の【保有水平耐力 ≧ 必要保有水平耐力(Qu ≧ Qun)】の確認は一連の保有水平耐力計算のメインの計算ではあります。

保有水平耐力計算の1次設計

保有水平耐力計算(ルート3)の一次設計部分は、次の3つの計算です。

  • 許容応力度計算(令第82条第1〜3号)
  • 使用上の支障が起こらないことの確認(令第82条第4号)
  • 屋根ふき材等の構造計算(令第82条の4)

1次設計部分については、ルート1、ルート2と同様の構造計算基準が適用されます。

▶︎ 「許容応力度計算」の解説はコチラ

2次設計部分の計算基準

1次設計に加え、2次設計である大地震時の検討については、層間変形角の確認(令第82条の2)と保有水平耐力が必要保有水平耐力を上回ることを確認(令第82条の3)をします。

  • 層間変形角の確認(令第82条の2)
  • 保有水平耐力 必要保有水平耐力の確認(令第82条の3)

層間変形角の確認

層間変形角は原則1/200以下としなければなりません。外装材が構造躯体の変形に追従できるものであるなどの条件があえば1/120以下まで緩和することができます。

▶︎ 「層間変形角」の解説についてはコチラ

保有水平耐力(Qu) ≧ 必要保有水平耐力(Qun) の確認

令82条の3に規定されています。

(保有水平耐力)第82条の3

建築物の地上部分については、第一号の規定によつて計算した各階の水平力に対する耐力(以下この条及び第82条の5において「保有水平耐力」という。)が、第二号の規定によつて計算した必要保有水平耐力以上であることを確かめなければならない。

  • Qun = Ds × Fes × Qud
  • (この式において、Qun、Ds、Fes及びQudは、それぞれ次の数値を表すものとする。
    • Qun 各階の必要保有水平耐力(単位 kN)
    • Ds 各階の構造特性を表すものとして、建築物の構造耐力上主要な部分の構造方法に応じた減衰性及び各階のじん性を考慮して国土交通大臣が定める数値(→S55建告第1792号第1)
    • Fes 各階の形状特性を表すものとして、各階の剛性率及び偏心率に応じて国土交通大臣が定める方法により算出した数値(→S55建告第1792号第2)
    • Qud 地震力によつて各階に生ずる水平力(単位 kN))

地上部分の階ごとに、保有水平耐力(Qu) ≧ 必要保有水平耐力(Qun) を確かめます。

そして、保有水平耐力(Qu)の計算方法が法第82条の3第一号に、必要保有水平耐力(Qun)が第二号に規定されています。

保有水平耐力(Qu)

保有水平耐力(Qu)は、法第82条の3第一号によりH19国交告第594号第4に規定されています。

保有水平耐力とは、崩壊形に達するときに各階の構造耐力上主要な部分(柱・耐力壁・梁)に生じる水平力の和です。そして、保有水平耐力は、Ai分布に基づく外力分布による荷重増分解析という解析方法で計算します。構造計算ソフトを使用しコンピューターで解析します。

崩壊形に達するまで、水平力をちょっとずつ増加させていき、崩壊形に達したときの各階の水平力の和を保有水平耐力とする解析方法です。

崩壊形は、全体崩壊形、部分崩壊形、局部崩壊形の3種の崩壊形があります。

局部的な崩壊で他の部分に余裕があってもその時点での各階の水平力の和を保有水平耐力としなければならなく、構造上は全体崩壊形がバランス的にも経済的にも望ましい崩壊形です。

必要保有水平耐力(Qun)

必要保有水平耐力(Qun)の求め方については、令第82条の3第二号に規定されています。

Qun = Ds × Fes × Qud

Ds:構造特性係数

Fes:形状係数

Qud:地震力によって各階に生ずる水平力(kN)

Ds(構造特性係数)

地震エネルギー吸収能力に応じた低減係数(0.25〜0.55)です。地震エネルギー吸収能力が高ければDsは小さく、地震エネルギー吸収能力が低ければDsは大きくなります。具体的には構造種別ごとにS55建告第1792号第1に規定されています。

地震エネルギー吸収能力があるとは、靭性に富むとか曲げ破壊生じるとか建築物が粘り強く壊れるという意味合いです。逆に、せん断破壊・付着破壊・圧縮破壊は靭性に乏しく地震エネルギー吸収能力がありません。

Fes(形状係数)

形状の特性を考慮した割増係数(1.0〜1.5)です。剛性率・偏心率をもとに構造的なバランスがいい建築物はFesを小さくでき、バランスが悪い建築物はFesが大きくなってしまいます。具体的にはS55建告第1792号第2に規定されています。

Qud

地震力によって各階に生ずる水平力(kN)です。求め方は令88条に規定されています。

Qud = ∑Wi × Ci

∑Wi:i階が支える建築物の重量

Ci:i階のせん断力係数

Ci = Z × Rt × Ai × Co

Z:地域係数(1.0〜0.7)→S55建告第1793号第1

Rt: 建築物の振動特性を表す数値(1.0以下)→S55建告第1793号第2

Ai:建築物の振動特性に応じて地震層せん断力係数の建築物の高さ方向の分布を表す数値 →S55建告第1793号第3

Co:標準せん断力係数(1.0)→令88条3項

必要保有水平耐力の算定式からわかること

1次設計の許容応力度計算では令第88条第2項によりCo=0.2以上ですが、必要保有水平耐力を求めるときは令88条3項によりCo=1.0以上としなければなりません。Coだけを比較すると1次設計の5倍です。

ただ、単純に水平力が5倍なるわけではなく、Ds(地震エネルギー吸収能力)、Fes(構造的なバランス)の係数によって低減することができます。(0.25〜0.825倍)

粘り強い破壊をする建築物で、かつバランスの良い建築物(の階)はDs×Fes=0.25となり、Co=0.25相当で1次設計の許容応力度計算の地震力の1.25倍まで低減されることになります。

また、許容応力度計算では構造躯体が損傷することは許容されませんが、保有水平耐力においては許容されます。

よって、保有水平耐力計算は各建築物の構造的な性能(バランスや粘り強さ)に応じた構造計画とすることができるため合理的で経済的な構造設計が可能です。

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