【はじめに】
建築基準法を短時間で理解するためには、自分の手を動かしながら具体的な例題を考えてみることがとても重要です。
1級建築士試験の勉強中の方や実務経験の浅い方だけでなく、実務経験が豊富な方も基本に立ち返って読んでいただけると嬉しいです。
次の図の例題について、表を埋めていき最終的に各層の地震層せん断力(Qi(kN))と地震力(Pi(kN))を求めます。
令第88条第1項〜第3項、S55建告第1793号に規定されている次の式をつかって求めることができます。本解説では、1〜8のステップで求めていきます。
Qi(kN) = ΣWi × Ci
Ci = Z × Rt × Ai × C0
- Z : 地域係数(S55建告第1793号第1)
- Rt : 振動特性係数(S55建告第1793号第2)
- Ai : 地震層せん断力係数の分布係数(S55建告第1793号第3)
- C0 : 標準せん断力係数(令第88条第2項、第3項)
Pi(kN) = Qi – Qi+1
丁寧に解説していますので、少し長くなってますが、ぜひ最後まで読んで理解を深めてください。
1. i層が支える荷重 ΣWi を求める
令第88条第1項本文に規定されている「各層の固定荷重と積載荷重の和(Wi(kN))」から「各層が支える固定荷重と積載荷重の和(ΣWi(kN))」を求めます。計算するi層より上層の固定荷重と積載荷重の積載荷重の和を合計した数値です。令第88条第1項本文で規定されている「部分」は構造計算においては通常「層」と読み替えて計算します。
ΣWi(kN) = Wn + Wn-1 + Wn-2 + … + Wi
- Wi(kN) = DLi(kN) + LLi(kN)
- DLi(kN) : i層の固定荷重
- LLi(kN) : i層の積載荷重
例題では諸条件より、W4,W3,W2,W1=4000(kN)なので、ΣW4=4000、ΣW3=4000+4000=8000(kN)と計算してΣW1まで求めます。
2. 地域係数 Z を決める
Z(地域係数)は、地方における過去の地震被害や地震活動の状況などに1.0〜0.7まので範囲で、地域によってS55建告第1793号第1で定められています。
例題では諸条件より、建築場所が東京都なので「1.0」です。
3. 振動特性係数 Rt を求める
Rt(振動特性係数)は、建築物の固有周期、地盤の種類に応じて求めれる数値で、具体的にはS55建告第1793号第2で定められています。Rtは告示の計算により1.0〜0.8の数値となります。
建築物の固有周期(T)と地盤の種別(TC)から計算することができます。どちらも単位は「秒(s)」で、S55建告第1793号第2に定められています。
固有周期(T(s))は建築物の高さと構造種別によって求められます。
T(s) = h (0.02 + 0.01 α)
- h = 建築物の高さ(単位 m)
- α:木造とS造である階の高さの合計のhに対する比
固有周期(T(s))は地盤の種別によって求められます。基本的には地盤調査の結果から建築物の底部の直下の地盤の種別を確認します。
第一種地盤 | 0.4 |
第二種地盤 | 0.6 |
第三種地盤 | 0.8 |
Rtは、固有周期(T(s))と地盤の種別(TC(s))の関係から次の3つの場合に分けて求めることができます。
T(s) < TC(s) の場合 | Rt = 1 |
TC(s) ≦ T(s) < 2 TC(s) の場合 | Rt = 1 – 0.2 ( T / TC-1 )2 |
2 TC(s) ≦ T(s) の場合 | Rt = 1.6 TC / T |
例題では諸条件より、h=12(m)、α=0なので、T=0.24で、地盤の種別は第2種地盤なのでTC=0.6(s)です。
そして、これらの固有周期(T(s))と地盤の種別(TC(s))の関係0.24<0.6(T<TC)から、Rt=1.0となります。
4. Aiを求める
Ai(地震層せん断力係数の分布係数)は、各層が支える荷重と各層の荷重の割合(αi)と建築物の固有周期(T(s))によって求めれる数値で、具体的にはS55建告第1793号第3で定められています。
Ai = 1 + ( 1 /√(αi ) – αi ) 2T / ( 1 + 3T )
- αi = ΣWi / Wi
まずは、αiを求めます。例題では諸条件により、α4=4000/12000=0.25、α3=8000/12000=0.5というようにα1まで求めます。
次にAiを求めます。例題では、各層が支える荷重と各層の荷重の割合(αi)と建築物の固有周期(T(s))によりA4=1.49、A3=1.25というようにA1まで求めます。なお、(地上の)最下階は1.0です。
5. 標準せん断力係数 C0 を決める
標準せん断力係数(C0)は、令第88条第2項、第3項に規定されています。
事例では諸条件により許容応力度計算(1次設計)における地震力のため令第88条第2項の標準せん断力係数(C0)は0.2とします。
6. 地震層せん断力係数 Ci を求める
地震層せん断力係数(Ci)は、これまで求めたZ、Rt、Ai、C0を使い、次の式で求めることができます。令第88条第1項に規定されています。
Ci = Z × Rt × Ai × C0
例題では、例えば、C4はZ=1.0、Rt=1.0、A4=1.49、C0=0.2なので、C4=1.0×1.0×1.49×0.2=0.298となります。同様にして、C1まで求めます。
7. i層に作用する地震層せん断力 Qi を求める
地震層せん断力(Qi(kN))は、令第88条第1項に規定されています。条文では、「当該建築物の各部分の高さに応じ、当該高さの部分が支える部分に作用する全体の地震力として計算」と規定されています。通常、「部分」は「層」、「全体の地震力」は「地震層せん断力」と言い換えることがき、次の式で求めることができます。
Qi(kN) = ΣWi × Ci
Q4(kN)はΣW4=4000(kN)、C4=0.298なので、Q4=4000×0.298=1192(kN)となります。同様にQ1まで求めます。
8. i層の地震力 P を求める
地震力(P(kN))は、建築基準法では規定されていませんが、各層の地震層せん断力(Qi(kN))の差で求めることができます。
Pi(kN) = Qi – Qi+1
例題では、P4=1192-0=1192(kN)、P3=2000-1192=808(kN)となります。同様にP1まで求めます。
最後に
建築基準法は、慣れが必要です。逆に言うと、慣れてしまえばこれまで読んだことのない条文でも、自力で読解することができます。自力で読解できるようになると建築基準法を読解することが楽しくさえなります。
【step①】
- 解説を読む ▶︎ 条文を確認する ▶︎ 理解できる
【step②】
- 条文を読む ▶︎ 解説で確認する ▶︎ 理解できる
【step③】
条文を読む
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